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“埼玉心療室”
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LCM メンタルケア学術学会総会における発表論文

                 NO.2     (2007年7月)

(心理士・心理カウンセラー・北河原学習塾 塾長 吉岡 )

                      〜 人を共感的に理解するとは 〜
                                                              
クライエントを共感的に理解するとは、どういうことだろう。 C・ロジャーズは、カウンセリングにおける心理援助の
基本的な態度を「共感的理解」、「無条件の肯定的な尊重」、「自己一致」というカウンセリング理念を最初に唱え、
クライエントは自ら解決する能力を持っていると考え、クライエント自身がカウンセリングの主導権を握る“クライエント
中心療法”を提唱した。
ロジャーズは、カウンセラーがクライエントの現在の諸感情への敏感さと、この理解をそのクライエントの現在
の諸感情に調和した言葉で伝える言語的な熟練との両方を持ち合せる時、「正確な共感的理解」が可能であるという。
それは、カウンセラーがそのクライエントの世界の中に完全に入り込んでいる状態であると述べている。
しかしその状態はあたかも自分自身のもののように感じるという性質を決して失うことなしに感じとることなのであるという。
この性質は、クライエントが感じるのと同じ情動を感じたり、クライエントの諸感情を分かち持つということではなく、
彼のいう正確な共感は、それらの諸感情の感知であり、それらの感情の敏感な覚知なのである。
つまり共感であって、「感情移入」ではないということである。決して個人の情動に流されることが無いが、しかし、
カウンセラーがクライエントに対し、上述したとおり、その感情をあたかも自分自身のように感じ取ることで、クライエントは
カウンセラーに対し、自分の悩みを伝えられた、理解してもらったと感じるのである。
そしてまたロジャースは「あなたが感じているものはこんな感じに間違いありませんか?」と自分が共感的に
理解していることをクライエントに確かめることが大切であるといってエントに確かめることが大切であるといっている。
私は、ロジャースのいう「共感的理解」が、カウンセラーにとって一番の基本的な態度でカウンセラーにとって一番の
基本的な態度であると考える。
私は、学習塾の教師とカウンセラーという両方の立場から、これが共感的理解ではないかと思う症例を踏まえて
共感的理解について考える。
  私が今回下記で紹介する症例で行った療法は“認知行動療法”である。
認知行動療法とは、行動の変容のみでなく、行動の背景にある認知の変容を目標とする治療法である。
基本的な考え方として、行動を支配する「認知的プロセス」を重視する。
行動や認知的行動は、クライエント自身が、能動的に、セルフコントロールできるといった姿勢が基本にあり、
以下のような認知のゆがみ(不適切な思い込み)を修正していく。
@『すべき思考』・・・・・・・・・・何かをする時に「〜すべきだ」とか「〜しなくてはならない」
                  と必要以上に自分にプレッシャーをかけてしまう。
A『全か無か思考』・・・・・・・・完全な成功でないと満足できない。少しでもミスがあるとすべて
                  少しでもミスがあるとすべて失敗と思い込み全否定する。
B『こころのフィルター』・・・・・良い面は視野に入らず、悪い面だけを見てしまう傾向。
C『レッテル貼り』・・・・・・・・・・ミスをした時に冷静に理由を考えずに、ダメ人間、怠け者などと
                  否定的なレッテルを自分に貼る。
D『感情的な決め付け』・・・・・自分の感情を根拠にして物事を全て正しい事と判断する。
E『結論の飛躍』・・・・・・・・・・根拠に基づかずに悲観的な未来を信じ込んだり、人が自分を
                  見下したり無視したと思い込む。
F『マイナス思考』・・・・・・・・・なんでもないことや、どちらかと言えば良い出来事をすべて悪くすり替えて考える。
G『拡大解釈と過小評価』・・・自分の欠点や失敗を過大に捉える一方で、自分の長所や成功を
                  「いつも取るに足らないこと」と過小評価する。
H『過度の一般化』・・・・・・・・一つの失敗や嫌な出来事だけを根拠に「何をやっても同じだ」
                  と結論づけたり、この先もずっとそのことが起きると考える。
I『自己関連付け』・・・・・・・・問題が起きた時に、色々な要因があるにかかわらずすべて
                  自分のせいでこうなってしまったと考える。
つまり、認知行動療法とは認知的技法と行動的技法とを使い、@〜Iのようなクライエントの歪んだ認知に気づかせ、
それを修正し、新しい適応行動を獲得できるように援助する療法といえる。
 〜 症例 〜
  クライエントは、公立高校に通う1年生、15歳の女子。祖父母、父母と5人で暮らす一人っ子。
本人が未成年ということと治療途中であることを考慮し、A子(仮名)で記載する。
今回のクライエントA子には、上記10項目全ての認知の歪みがあった。
私がA子と知り合ったのは、約1年前。A子の祖母の紹介で母親と一緒に私のカウンセリングルーム“埼玉心療室”
を訪ねて来た。その時の彼女は、活気がなく、ほとんど口を聞かず死人のようであった。
母親は、インテーク面接(受理面接・4時間)で次のようにA子について語った。
「小さい頃から、やる事すべてが遅く、見ているだけで苛立ち、何かというと、叱り、手を上げて育てました。
小中学校では一人も友達もできず、よくいじめられていました。
私に怯えていつも顔色を見ながら話し、学校の同級生と会うと固まってしまって何も話せません。
学力も小学校レベルしかないと思います。中学の3年間、病院の心療内科でカウンセリング
を受けていましたが何の変化も見られず悩んでいました。
私自身も学生の頃、不登校になった事があり、精神的に弱いので遺伝でしょうか。
私の接し方が原因でこの子はこうなってしまったと今は思っていますが、どうしていいか分かりません。」 
話し終わる頃には、この母親は号泣していた。
母親の持っているパニック障害(障害がある子供を持つ女性のパニック障害(障害がある子供を持つ女性の発症率
が高い)を治療する事が先決だと判断した私は、まず、母親のカウンセリング(認知行動療法)を何度も行い、
A子への接し方を根本から変えること母親との全面的信頼関係を築くことに時間を割いた。
3回目のカウンセリングの時、母親は次のように本音を語った。
「A子のことを親の責任として100%自分ひとりで背負ってきました。先生と知り合いその負担が半分になり
どんなに安心したか想像できますか。先生と知り合えたことを私がどれほど感謝しているか分かりますか」
それは、心の奥底から湧き出たような叫びのようだった。
そして、5回目のカウンセリングで母親との信頼関係が構築できつつあると判断し、本人のカウンセリング(認知行動
療法・週1回・2時間)を始めた。もちろん母親へのカウンセリングもときどき並行して行った。
 私がA子と信頼関係を作るために取り入れた方法は、カウンセリングをやると本人には言わず、単に個別指導で塾に
通って学習する、その学習を通してA子の心の奥にある本心を探っていくという方法だった。
学習塾へ通うということで本人も気楽に通塾してきた。これは、人間不信になっているA子の緊張感を解き、リラックスした
状態で会話ができる状況を作るラポートである。
まず、最初は算数で理解していないところまでさかのぼってみた。整数、少数、分数など数の概念がまったく理解できて
なく、すぐに学習障害があることが分かった。また回避性と依存性人格障害の症状も見られたのでこの2点に絞って
対処していく事にした。そこで小学2年生からの復習を一からやる事から始めた。
  最初の頃のA子は、人の顔をまじまじと見続けるだけでほとんど私のの質問にも答えることはなかった。
簡単な挨拶や返事をするのがやっとで、この年代の女の子が興味あるお洒落をすることもなく、何にも興味を示さなかった。
自分から話しかけることもなかった。ただ私が準備した学習を黙々とやるだけだった。
しかし、3ヶ月が過ぎた頃から少しずつ自分のことを話し始めるようになり、先生とはっきり呼ぶようになった。
しかし何事にも自信がなく、何を勧めてもすぐに「できないよ。」と決め付け、やろうとしなかった。
また前回やった学習もほとんど忘れていて、おなじ学習(小学3,4年生レベル)を毎週やる日々が続いた。
  6ヶ月が過ぎた頃、母親から「先生、A子がずいぶん変わってきて、今日カラオケに連れ
て行ったらあのA子が歌ったんですよ。信じられません。」という連絡が入った。
私も少しずつ変化があるとは思っていたが、人前で歌を歌ったとは信じられない出来事だった。
それまで母親と一緒にしか出かけられなった買い物などに友達と出かけられるようにもなってきた。
学習は小学5,6年レベルに入っていた。
今までのカウンセリングで得た情報を元に、A子の認知を歪めてきた環境要因を簡単に下図のようにまとめながら現状を
把握していく作業を始める。
図1 : 学校でいじめられていることが要因の相互作用
図2 : 親の子供への接し方が要因の相互作用
  8ヶ月が過ぎた頃のA子は、少しうるさいよと言うぐらい私の前では学校でできた友達の話や先生、部活動、文化祭等
学校生活をよく話すようになってきた。この頃になると学習面も少しずつ進歩があり、中1レベルの学習に入っていた。
また携帯電話を買ったことをきっかけに、メール・着歌・着メロと今の子供たちのだれでもがやっていることに興味を持つ
ようになってきた。異性、化粧、ファッションとどんどん興味を持ち、今の流行り言葉「うぜえ」、「きもい」、「やばい」
なども使うようになった。これらの言葉は、教育に携わる者としては、あまり好ましい言葉ではないが、A子が使うとそこまで
成長したのかと微笑ましく聞けるから不思議である。この頃になると、5項目の認知の歪みが修正されていた。
 10ヶ月が過ぎた頃のA子は、携帯電話のことがすごく詳しくなり、友人とほとんどメールをして余暇を過ごすようになった。
私との学習も半分が携帯電話のメールや着メロ、学校や友達の悪口、小中学校の時の嫌だった思い出話などに
割かれるようになった。それらの事を笑って話せるA子の成長ぶりには驚かされた。
しかし、自分に少し自信がついたのか人の意見に反論するようにもなってきた。自分の意見を主張する事は、
いいことだがその主張の仕方が分からず、頭に浮かんだ事をすべて口にしている状態である。
ここにきて、自分の気持ちをどう整理して表現するかという新しい課題が浮かんできた。学習は、中2レベルに達していた。
 約1年がたった今も、もちろんA子の精神障害が完治したわけではない。しかし明らかに1年前のA子とは違う、
いや本当のA子の内面の姿が少しずつ出てきた。このA子の変化の要因は、私とA子との間に持てた共感的理解
にあると思う。「共感的理解」とは難しい言葉であるが、この場合A子の心の内にある痛み、悩みを自分と同じ
痛みと捉え愛情を注ぎながら、ぎながら、A子の心の中に長年かかって溜まった認知の歪みをゆっくり修正し、
今まで誰一人認めなかったA子の存在を認め、A子が私のA子に対する理解を確認できたと思えた時、
共感的理解に至ったように思える。この1年のA子の成長を通じて私は共感的理解とはどういうものかがはっきり理解できた。
この症例のA子にとって、私が唯一の本当の自分を信頼を持ってさらけ出せる共感的理解者になる事ができた時、A子は
自らの力で自分の置かれている立場を理解し、それに立ち向かって成長してきた。
これこそロジャースのいうクライエント中心療法の基本ではないだろうか。
A子のカウンセリングを通じて、私自身もかなり成長させてもらったように感じる。
真のカウンセラーとは、心理学の知識がどれだけあるかではなく、クライエントがカウンセラーに対して何を伝えたいのか、
何を理解してもらいたいのかを受け入れられる、クライエントのの共感的理解者になれる人である。
私自身、20数年学習障害、自己愛性人格障害、広汎性発達障害、思春期挫折症候群等判断された多くの子供たち
と接し、リストカット、不登校、いじめ、家庭内暴力、ひきこもりなどに至った子供たちと対応してきた経験があったからこそ
対処できた症例であると思う。
  現在の混沌とした日本社会で一番の犠牲になっているのは、子供たちである。
今、色々な精神障害を持つ子供たちが急増している。それがいじめ、不登校、非行などの社会問題になってきている。
昨今のいじめによる自殺問題をきっかけに各教育関係団体・地方公共団体で学校や地域における「悩み相談所」を増やす
動きが急増してきた。しかし、その相談員のスキルなど懸念される点も多く、ある学校では、生徒全員にカウンセリング
行っているところもあるが、如何せん人数が多く一人の持ち時間は20分間である。
学校教育目標に教員に生徒たちとの「共感的理解」を求めている学校もあるが、それははっきり言って無理な事である。
学校の教員の一番の仕事は学習指導であり、その授業をこなし、部活の指導をした上で20人以上の生徒たち一人
ひとりと心の「共感的理解」を深める時間などあるはずがない。
上記したようにクライエントと信頼関係を築き、「共感的理解」に至るにはかなりの時間がかかるのは、私の事例を見ていた
だいて分かるとおり現実であり、こうした対応も、もっと考慮すべき問題がかなりある。
  日本でも欧米並みに、カウンセリングがもっと認知され、環境が整い、数多くのA子のような子供たちが
こうしたカウンセリングによって立ち直って生きていけるような社会になる事を切に希望する。
(御礼)
今回の論文を書くきっかけを与えてくださったメンタルケア学術学会の理事長先生をはじめ
関係諸団体皆様に感謝を申し上げ、この論文がカウンセラーの方々および関係諸団体の方々に
少しでも参考になれば幸いでございます。ありがとうございました。   論文@もご拝読ください。    以上。
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